最初の症例は51歳の女性で、嫉妬妄想(しっともうそう)と進行性の認知症を示し、大脳皮質に広範に特有な変性病変が見つかり、従来知られていない病気であることがアルツハイマーによって報告されたのです。
この症例は初老期の発病でしたが、アルツハイマー病は高齢者に発病するほうが多く、高齢者の認知症では最も頻度が高い疾患で、全体の50〜60%を占めます。
アルツハイマー病では、多くは物忘れで始まります。
それが徐々に目立つようになり、見当識(けんとうしき)の障害、判断能力の障害なども加わり、認知症が着実に進行して最後は寝たきりになり、5〜15年の経過で肺炎などを合併して亡くなります。
●アルツハイマー病の原因は何か
アルツハイマー病については、1980年ごろの「コリン仮説」以来の活発な研究にもかかわらず、いまだ原因は不明のままです。
「コリン仮説」というのは、アルツハイマー病の大脳ではアセチルコリンという神経伝達物質が減少しているために起こるという仮説ですが、原因解明には至りませんでした。
しかし、これは治療上大きな貢献をしました。現在、日本で使用されているドネペジル(アリセプト)という薬剤は、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを阻害することにより、脳内のアセチルコリンを増やす作用をもっています。
アルツハイマー病の脳には、ベータアミロイドと呼ばれる蛋白からなる老人斑とタウ蛋白からなる神経原線維変化がたくさん出現し、そのために神経細胞が脱落し、認知症が起こります。
しかし、なぜベータアミロイドやタウ蛋白が脳に特異的にたまるかということに関しては多くのことがわかってきましたが、原因解明にまでは至っていません。
また、家族性アルツハイマー病ではいくつかの遺伝子異常が明らかにされていますが、大部分を占める孤発性(こはつせい)(家族に同じ病気の人がいない)のアルツハイマー病では遺伝子異常は明らかではありません。
●アルツハイマー病の症状の現れ方
多くは物忘れで始まります。同じことを何回も言ったり聞いたり、置き忘れ・探し物が多くなって、同じ物を買ってきたりするなど記憶障害が徐々に目立ってきます。
それとともに、時や場所の見当識が障害され、さらに判断力も低下してきます。
意欲低下や抑うつが前景に出ることもあります。
早いうちは物忘れを自覚していますが、徐々に病識も薄れてきます。
そのうち、物盗られ妄想や昼夜逆転、夜間せん妄(もう)、徘徊、作話(さくわ)などの認知症の行動・心理学的症状(BPSD)が加わることが多く、介護が大変になります。
さらに進行すると、衣類がきちんと着られない、それまでできていたことができなくなるなど、自分のことができなくなり、種々の介助が必要になってきます。
また、トイレの場所がわからなくなったり、外出しても自分の家がわからなくなってきます。
さらに、自分の家族がわからなくなり、動作が鈍くなり、話の内容もまとまらなくなります。
そして、歩行もできなくなり、食事も自分でできなくなり、全面的な介助が必要になって、ついには寝たきりとなり、肺炎などの合併症で亡くなってしまいます。
進行のしかたは人により異なりますが、数年から十数年の経過をとります。
●アルツハイマー病の検査と診断
認知症を診断したあと、特徴的な臨床像(多くは60歳以上に起こる記憶障害を中心とする緩やかに進行する認知症、早期の病識の欠如、取り繕いを主体とする特有な人格変化)が診断に役立ちます。
補助診断で最も有用な検査は脳画像で、CTやMRIでは海馬(かいば)領域に目立つびまん性脳萎縮、SPECTでは頭頂領域や後部帯状回(たいじょうかい)中心の血流低下が特徴的です。
血液などの一般検査には異常はありません。
髄液検査が行われることもありますが、その際にはベータアミロイドの低下やタウ蛋白の上昇がみられます。
最近では早期診断が重視されており、健忘(けんぼう)を中心とする軽度認知障害(MCI)の50〜70%が、のちにアルツハイマー病に進展することが知られているので、この時期に治療的介入をすることが大切です。
●アルツハイマー病の治療の方法
薬物療法として現在、使用できるのはドネペジル(アリセプト)等ですが、これは進行を遅くする効果を期待して使用されています。
同じコリンエステラーゼ阻害薬のガランタミンとリバスチグミン等があります。
また、ベータアミロイドをとり除くワクチンの開発が進められています。
一方、非薬物療法もいろいろな試みがなされています。
これらも進行を遅くしたり、BPSDを軽減するのに役立つことが期待されています。
以上
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