2014年08月17日

虚血性心疾患とは?

●高齢者での特殊事情

米国の65歳以上の高齢者では、その3割の人が狭心症を含めた虚血性心疾患(狭心症、急性心筋梗塞など)の臨床的徴候を示すといわれており、日本でも高齢社会の到来とともにポピュラーな疾患になってきています。

75歳未満では男性に多くみられる病気ですが、75歳以上では男女間の差は少なくなり、85歳以上ではほぼ同じ頻度になります。

また、虚血性心疾患による死亡者の85%は65歳以上であるといわれています。


●狭心症の場合

狭心症のひとつである労作性狭心症は、歩行などの運動や労作によって1〜15分続く前胸部痛、前胸部不快感などが誘発され、安静あるいはニトログリセリンの舌下錠によって数分以内に軽快する経過が特徴的です。

しかし、高齢者では前胸部痛よりは息切れや疲れやすさを訴えることが多くなり、部位も必ずしも胸骨部の痛みではないことがあり、誤診の原因になります。

さらには、胸痛などを伴わない無症候性心筋虚血も、3割程度の人に認められるといわれています。

また、認知症や意識不鮮明のため狭心痛の症状を正確に伝えられない人がいるので注意が必要です。



●急性心筋梗塞の場合

同様に、高齢者の急性心筋梗塞では、典型的な胸痛を訴えるものはその3分の2にすぎず、神経学的症候を示したり、胃腸症状を訴えることが多くみられます。

これらの結果、高齢者は発症から医療機関受診までに、若い層に比べてより長い時間を要してしまい、治療の遅れにつながってしまいます。

高齢者の急性心筋梗塞例では死亡率が高く、肺水腫、心不全、心原性ショックなど重い合併症を起こしたり、心臓ペースメーカーを必要とする伝導障害あるいは心房粗細動などを合併する場合の多いことも知られています。




●治療とケアのポイント

●狭心症の場合

症状、心電図、運動負荷試験などで狭心症の診断(あるいは疑い)がついたら、次に冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)を行うことを検討します。

冠動脈のどこに、何カ所、どんな狭窄病変があるのかを知るために行う検査です。

患者さんの全身状態、理解力、腎機能、あるいは希望(人生観)を加味して検査を行うか否かを決めますが、条件が満たされれば85歳を超える人でも安全に検査することが可能です。



最近の狭心症の検査では心臓カテーテル検査による冠動脈造影のほかに、マルチスライスCTスキャンを用いた冠動脈CTアンギオグラフィ(CTA)も行われるようになってきました。

腕の静脈に造影剤を注入することで冠動脈を映し出すことができるので、カテーテルを体内深くまで入れる必要がなく、外来で検査できます。

冠動脈狭窄の判定能力は心臓カテーテル検査による冠動脈造影に及びませんが、スクリーニング検査として用いられるようになってきました。

 
狭心症の治療は、内科的薬物治療、外科的冠動脈バイパス手術、そしてカテーテルによる冠動脈インターベンション治療(風船による冠動脈拡張術、ステント留置術など)の3種類の治療法から、ひとつあるいは複数を組み合わせて行います。

主治医とよく相談し、病状と患者さんの希望に合った治療法を選択します。

なお、後二者の治療を行うためには、前述した冠動脈造影検査が必須になります。



日常生活では、冠動脈の動脈硬化の進行を防ぐために糖尿病、高血圧、脂質異常症をきちんと管理し、禁煙することが極めて重要になります。

医師に指示されたカロリーや塩分の摂取量を守り、ダイエットにより肥満を解消することも大切です。

それまで安定していた狭心症の症状が急に出やすくなったり、症状が強くなった際には、急性心筋梗塞の前触れ(不安定狭心症)であることがあるので、すみやかに主治医に相談してください。



●急性心筋梗塞の場合

突然、強い胸部痛を訴えて発症する急性心筋梗塞は、発症直後の6時間あまりが治療上の"ゴールデンアワー"と呼ばれています。

この間に、冠動脈の血流を再開させる再潅流療法を行うと一部の心筋を梗塞壊死から救い、患者さんの心機能を保持し、生命の危険(死亡率)を改善しうるのです。

このため、15分を超えて続く胸痛発作がある時には、ただちに救急医療機関を受診することが大切です。



急性心筋梗塞では、年齢、合併症(腎機能の低下、認知症、出血性疾患など)、心筋梗塞の規模と循環動態、発症からの時間経過などを総合的に判断し、保存的治療、冠動脈血栓溶解療法、緊急冠動脈インターベンション治療のなかから治療法を選択します。


保存的治療は、安静、鎮静、酸素吸入、硝酸薬の投与などの一般的治療を行ったうえでCCU(心臓集中治療ユニット)において行われます。

不整脈の監視と治療、ポンプ失調に対する薬物および機械的補助療法、機械的合併症(心破裂、心室瘤形成など)の予防と治療が中心になります。

発症から6時間以内で禁忌がなければ、各施設の状況により冠動脈血栓溶解療法あるいは緊急冠動脈インターベンション治療を行います。



●その他の重要事項

高齢者がCCUなどに入院すると、CCU症候群と呼ばれるせん妄状態を来すことがしばしばあります。

せん妄とは、軽度あるいは中等度の意識障害とともに妄想や興奮、うわ言などが続く状態のことで、病気による苦痛、不安、孤独感などの精神的・肉体的ストレスを背景に現れます。


病棟内で日ごろ慣れ親しんだ家族の顔を見、会話をすることで予防できることもあり、症状が現れても落ち着かせることができます。

こまめに面会することは、高齢の患者さんにとって重要な精神的支えなのです。



以上


posted by ホーライ at 02:25| 心臓の病気 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年08月15日

関節リウマチ(超基礎編)

関節リウマチとは、免疫の異常によって、全身の関節にこわばり、痛み、はれを生じる病気です。

長引くと、関節の変形をきたします。

原因は完全には解明されていません。

初期症状は、関節の痛み、炎症です。

進行して発熱や体重減少などの全身症状が起こると、心膜炎などを起こして予後不良となることもあります。

左右対称に痛みやはれ、こわばりなどの症状が出たら、一度受診しましょう。

治療には、薬物療法、手術療法、リハビリテーションの3つがあります。

薬物療法では抗リウマチ薬などが使用されますが、これは効果が現れるまでに1カ月から半年ほどかかります。

また、痛みを抑えるために、非ステロイド抗炎症薬が長期間使用されます。

関節のこわばりを緩和させるためにも、リハビリテーションは欠かせません。

高齢者ではとくに骨粗鬆症の予防や治療にも注意する必要があります。



●関節リウマチとは?

高齢者での特殊事情

一般に女性に多いのですが、高齢者では性差は縮まります。

高齢者では一般に疾患活動性に対する予後がよい、リウマチ因子陽性率が低い、リウマチ性多発筋痛症のような発症をみることがある、などの特徴があります。

これとは別に、高齢者における関節リウマチ(RA)の病像には罹病期間の長さを反映していることがあり、この場合には、関節の変化、骨粗鬆症が高度で、長期の薬物療法の結果としての臓器障害の合併も多くみられます。

関節リウマチとしての経過が長い例で、時に発熱や体重減少などの全身症状が強く、多発性神経炎、胸膜炎・心膜炎、心筋炎、間質性肺炎などを起こして、予後不良となる場合があります(悪性関節リウマチまたはリウマチ性血管炎)。




●治療とケアのポイント

高齢者の関節リウマチの治療には、以下のような特徴、注意点があります。

@高齢発症の関節リウマチでは、病初期における疾患活動性が高い場合でも、疾患の予後は比較的良好で、治療により寛解する確率が高い。

A治療効果が部分寛解にとどまったとしても、経過のなかで関節機能障害によって日常生活動作の大きな低下を来すに至るのは、一般に発症してから10年前後なので、治療にあたっては患者さんの平均余命を考慮する必要がある。

B長期の罹病をへて高齢に至った患者さんの場合、すでにさまざまな治療が試みられており、高い活動性が持続している場合でも、新たな治療で大きな効果を期待することはできない。

C薬剤の副作用発現の危険性が高いことなどを念頭に置いて薬剤を選択する。

D高齢者ではとくに骨粗鬆症の予防・治療に留意する。




以上


posted by ホーライ at 02:12| 自己免疫疾患 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年08月10日

クローン病とは?(超入門編)

●どんな病気か

小腸、大腸を中心とする消化管に炎症を起こし、びらんや潰瘍を生じる慢性の疾患です。

症状は、腹痛、下痢、下血、体重減少、発熱などです。

20代に最も多く発症しますが、ほかの年代にもみられます。

欧米に多く、日本では比較的少ない疾患ですが、最近患者数が増えています。

潰瘍性大腸炎と似ている点も多く、2つをまとめて炎症性腸疾患と呼びます。



●クローン病の原因は何か

遺伝的要因とそれに基づく腸管での異常な免疫反応のためとされていますが、解明されていません。

食生活の欧米化によって患者数が増えているといわれ、食物中の物質や微生物が抗原となって異常反応を引き起こすことが、原因のひとつと考えられています。



●クローン病 症状の現れ方

下痢、腹痛、発熱、体重減少、全身倦怠感がよくみられます。血便はあまりはっきりしないこともあり、下痢や下血が軽度の場合、なかなか診断がつかないことがあります。

口腔粘膜にアフタ(有痛性小円形潰瘍)や小潰瘍がみられたり、痔、とくに痔瘻や肛門周囲膿瘍といわれる難治性の肛門疾患を合併したりすることがあります。

また消化管以外の症状として、関節炎、皮膚症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症など)、眼症状(ぶどう膜炎など)を合併することがあります。



●クローン病の治療法

検査と診断

潰瘍性大腸炎と異なり、炎症は口腔から肛門までの消化管全体に起こりえますが、最も病変が生じやすいのは回盲部(小腸と大腸のつながるところ)付近です。

病変が小腸のみにある小腸型、大腸のみにある大腸型、両方にある小腸大腸型に分類されます。

クローン病の病変は、非連続性といわれ、正常粘膜のなかに潰瘍やびらんがとびとびにみられます。

また、縦走潰瘍(消化管の縦方向に沿ってできる細長い潰瘍)が特徴的で、組織を顕微鏡で見ると非乾酪性類上皮細胞肉芽腫といわれる特殊な構造がみられます。

大腸内視鏡検査、小腸造影検査、上部消化管内視鏡検査などを行い、このような病変が認められれば診断がつきます。

血液検査では炎症反応上昇や貧血、低栄養状態がみられます。




クローン病の治療の方法

薬物療法として、5−アミノサリチル酸製剤(サラゾピリン、ペンタサ)、ステロイド薬を使用します。

食べ物が原因のひとつとして考えられているため、栄養療法も重要で、最も重症の時には絶食と中心静脈栄養が必要です。

少しよくなってきたら、成分栄養剤(エレンタール)という脂肪や蛋白質を含まない流動食を開始します。

成分栄養剤は栄養状態改善のためにも有効です。


炎症が改善し普通食に近いものが食べられるようになっても、脂肪のとりすぎや食物繊維の多い食品は避けます。

腸に狭窄や瘻孔(腸管と腸管、腸管と皮膚などがつながって内容物がもれ出てしまう)を生じたり、腸閉塞、穿孔、膿瘍などを合併したりした場合、手術が必要となることがあります。

インフリキシマブ(レミケード)は、抗TNF−α抗体製剤といわれる薬剤で、高い活動性が続く場合や瘻孔を合併している場合にとくに有効です。

アザチオプリン(イムラン)などの免疫調節薬も使用することがあります。




クローン病に気づいたらどうする

長期にわたって慢性に経過する病気であり、治療を中断しないことが大切です。

治療の一部として日常の食事制限が必要なことが多く、自己管理と周囲の人たちの理解が必要です。

症状が安定している時には通常の社会生活が可能です。

厚生労働省の特定疾患に指定されており、申請すると医療費の補助が受けられます。





●クローン病は、1932年に米国の医師クローンによって最初に報告された、小腸や大腸に慢性の炎症や潰瘍ができる病気です。

北米やヨーロッパに多い疾患ですが、日本でも増加傾向にあり、2007年の登録患者数は約2万7000人となっています。

20歳前後の若年で発症することが多く、緩解と再燃を繰り返します。根本的な治療法はありませんが、多くの場合、緩解状態に導入しこれを維持することが可能です。

 
クローン病の治療は、腸管に起こっている炎症を抑え、症状の軽減を図り、栄養状態を改善させるための薬物療法と栄養療法が中心となります。

経鼻チューブを自己挿入し、夜間就寝中に成分栄養剤を注入する在宅経腸栄養療法を行うこともあります。

 
狭窄、穿孔などを生じた場合は手術が必要になりますが、術後の再発などの問題があり、最近ではできるだけ内科的な治療を続け、手術が必要な時もなるべく小範囲の切除や狭窄形成術にとどめるのがよいと考えられています。

 
抗TNF−α抗体製剤(レミケード)はクローン病の炎症と深く関わっているTNF−αという炎症伝達物質(サイトカイン)と結合し、その作用を阻害する新しいタイプの薬剤で、強い炎症が続く場合や、とくに難治性の瘻孔がある場合に用いられます。

アザチオプリン(イムラン)などの免疫調節薬がしばしば併用されます。

 
以上


posted by ホーライ at 01:50| 消化器系 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月29日

胃・十二指腸潰瘍とは

●胃・十二指腸潰瘍とは


潰瘍とは、粘膜がただれて炎症を起こしてできる、深くえぐれたような傷のことをさします。

40歳以上の人に多い胃潰瘍は胃にでき、10〜20代の若者に多い十二指腸潰瘍は、十二指腸にできたものをいいます。

どちらも、胃酸の影響を受けてできるので、消化性潰瘍と呼ばれます。

胃・十二指腸潰瘍の原因のうち、最も多いのがピロリ菌です。

それ以外の原因として注意しなくてはいけないのが、アスピリンなどに代表される非ステロイド性消炎鎮痛薬です。

リウマチや風邪の治療に使用されているのですが、この薬に由来する潰瘍は腹痛などの自覚症状を伴わないために、治療を受けないまま悪化し、治りにくい潰瘍に移行してしまうことが多いのです。

自覚症状として最も多いのは、上腹部痛です。

胃潰瘍では食後に、十二指腸潰瘍では空腹時によく起こります。

重症化すると、吐血や下血が起こります。

疑いがある場合は、速やかに消化器の専門医を受診しましょう



●胃・十二指腸潰瘍とは?

どんな病気か

胃酸の影響を受けて潰瘍を形成するものを総称して消化性潰瘍と呼んでいます。

消化性潰瘍の代表は、胃潰瘍と十二指腸潰瘍です。

 
胃潰瘍は、40歳以降の人に多くみられるのに対し、十二指腸潰瘍は10〜20代の若年者に多くみられます。

十二指腸潰瘍の患者さんは、過酸症であることが圧倒的に多いのですが、胃潰瘍の患者さんは、胃酸の分泌は正常かやや少なめの場合がほとんどといわれています。

 
胃の粘膜に炎症が生じると、胃の粘膜は多かれ少なかれ障害を受けます。

この時、粘膜が深くえぐり取られたものを"潰瘍"と呼んでおり、浅い変化しか生じなかったものを"びらん"と呼んでいます。

 
びらん性胃炎というのは、腹痛などの症状が胃潰瘍と同じように現れますが、回復は早く、症状は数日で消え、内視鏡で観察すると胃炎の所見も1〜2週であとかたもなく消えてしまうことが多いといわれています。

これに対して、胃潰瘍は症状が長く続きますし、潰瘍が治癒するのに2〜3カ月もかかります。



●胃・十二指腸潰瘍の原因は何か

胃・十二指腸潰瘍の成因のうち、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)に由来するものが十二指腸潰瘍で95%、胃潰瘍で70%前後とされています。

ピロリ菌以外の成因として重要なのは、薬剤、とくに非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs:エヌセッド)です。

アスピリンが最も有名ですが、日本ではアスピリン以外でも多数のエヌセッドが関節リウマチやかぜなどの治療に使用されています。

 
これらの薬剤は、胃酸から胃粘膜を守るうえで重要な役目をしているプロスタグランジンの合成を抑制する作用をもっています。

そのため、エヌセッドを服薬すると、胃の防御機構が障害され潰瘍を形成するのです。

エヌセッドに由来する潰瘍の特徴は、上腹部痛などの症状を伴わない例が多いので、治療を受けないまま悪化して出血を起こしたり、難治性の潰瘍に移行する例が多いといわれています。

 
現在、ピロリ菌とエヌセッドが胃・十二指腸潰瘍の2大成因といわれており、それ以外の原因によるものは、日本では5%を切るくらい少ないことが明らかになってきています。

したがって、ピロリ菌とエヌセッドに対する対策が確立されると、胃・十二指腸潰瘍の治療および予防が飛躍的に進歩すると考えられます。



●胃・十二指腸潰瘍 症状の現れ方

自覚症状で最も多くみられるのは上腹部痛です。十二指腸潰瘍では、空腹時痛がよくみられ、とくに夜間にしばしば起こります。

胃潰瘍では、食後30分から1時間たったあとの上腹部痛がよくみられます。


しかし、すべての胃・十二指腸潰瘍の患者さんに上腹部痛が現れるわけでなく、20〜30%では痛みが出現しないことに注意する必要があります。

とくにエヌセッド由来の潰瘍の場合は、上腹部痛が出にくいことが明らかになっています。


潰瘍からの持続的な出血があると、吐血(胃酸と混じるためコーヒーの残りかす様のことが多い)または下血(タール便と呼ばれる海苔のつくだ煮様の黒っぽい便としてみられることが多い)として症状が現れてきます。

出血症状が現れた場合は、急を要することが多いので、病院を早急に受診してください。

そのほか、むねやけ、吐き気、嘔吐などがみられることがあります。

食欲は、吐き気が強い時を除けば落ちてくることはむしろ少ないといわれています。




●胃・十二指腸潰瘍の治療法

検査と診断

 胃・十二指腸潰瘍の診断に最も重要な検査は、バリウムによるX線造影検査と内視鏡検査であり、この2つの検査により診断は容易につきます(図18)。

@X線造影検査

 バリウムを服用後、体位をいろいろ変えながら撮影します。潰瘍部位にバリウムがたまるため、ニッシェと呼ばれる特有の像を示します。そのほか、間接症状として胃や十二指腸の変形がみられることがあります。十二指腸球部の変形は、クローバー状や歯車状を示すことがあり、タッシェと呼ばれています。

A内視鏡検査

 胃・十二指腸潰瘍の診断において内視鏡検査で得られる情報量は、X線検査の数倍以上といわれています。バリウム検査よりつらい検査ですが、被曝の可能性はないので繰り返し受けることができます。内視鏡観察下で組織の一部を採取して調べる生検を行うことがあります。主として胃がんとの鑑別のためなのですが、ピロリ菌の診断を目的とした生検が最近は増えてきています。

胃・十二指腸潰瘍の治療の方法

 胃・十二指腸潰瘍の治療は、大きく3つの時代に分けて考えることができます。


●第1期「生活習慣病の時代」

 第1期は1980年以前で、治療は安静を保つことと胃に負担をかけない食事をとることが基本であり、それに加えて薬剤療法が行われていました。この当時の薬剤療法は、胃酸を中和する制酸薬や胃酸分泌を抑制する抗コリン薬が攻撃因子抑制薬として使用され、胃粘膜防御因子増強薬と呼ばれる薬剤と併用していました。この療法は一見理想的な治療法にみえますが、実質的な効果を伴っていなかったのです。


●第2期「治療革命の時代」

 第2期は、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)の登場によって幕を開けます。この薬剤は、塩酸を分泌する壁細胞のヒスタミンH2受容体に作用して、胃酸の分泌を抑制できる画期的なものでした。これまで、どの薬剤によっても成し遂げられなかった夜間の酸分泌をほぼ完璧に抑制することができ、胃内の平均pHを確実に上昇させることができました。腹痛などの自覚症状は、1週以内に90%以上の患者さんで消失し、潰瘍も8週以内に80%以上の治癒率を示すことが明らかになったのです。

 その後、プロトンポンプ阻害薬(PPI)という究極の酸分泌抑制薬が開発されました。PPIは、壁細胞における受容体を経由して酸を産生するプロトンポンプそのものに作用し、酸をつくることを直接止めてしまいます。したがって、PPIはすべての酸分泌刺激に対して抑制を行うことが可能な薬剤なのです。PPIを使用すると、胃・十二指腸潰瘍の90%以上が8週以内に治ることが明らかになってきました。

 胃・十二指腸潰瘍が治癒したあと、何も治療をしなければ、1年以内に約70%が再発を起こします。そのため、潰瘍治癒後も、H2ブロッカーや防御因子増強薬による維持療法と呼ばれる潰瘍再発予防のための薬剤投与が行われていました。維持療法を行うと、1年の再発率が10〜20%くらいにダウンすることが知られています。


●第3期「原因療法の時代」

 ピロリ菌の除菌療法により、維持療法なしでも1年後の胃潰瘍の再発率は10%、十二指腸潰瘍は5%と極めて低く抑えられることが日本でも明らかになりました。

 胃・十二指腸潰瘍のもうひとつの原因であるエヌセッドの服用による胃・十二指腸潰瘍の治療については、エヌセッドの服用を中止することが原因療法になります。しかし、関節リウマチなどの患者さんでは中止できないことが多く、そのため原因療法に準じる治療法として、エヌセッド投与によって減少する胃粘膜プロスタグランジンを補充する、プロスタグランジン誘導体の投与が行われます。

 このように、胃・十二指腸潰瘍の治療はこの20年の間にすっかり様変わりしてきました。昔は、夏目漱石など胃・十二指腸潰瘍で亡くなった人も多かったのですが、今では治療法が確立されてきたため、昔のように恐ろしい病気ではなくなりつつあります。

胃・十二指腸潰瘍に気づいたらどうする

 胃・十二指腸潰瘍の疑いのある時は、早急に医師の診察を受けてください(できれば消化器専門医)。なかでも、強い上腹部痛を伴う場合は胃・十二指腸潰瘍の穿孔(孔があく)が考えられますし、吐血や下血を伴う場合は、胃または十二指腸粘膜からの出血が考えられますので、至急救急外来を受診してください。


以上
posted by ホーライ at 23:31| 消化器系 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月27日

狭心症とは?(1)

●狭心症とは?(1)

狭心症とは、突然の胸の痛みや圧迫感などを起こす病気です。

発作はその起こり方などで、以下のように分類されます。

(1)労作(性)狭心症。これは、歩行や階段の上り下りなどの運動、精神的な興奮やストレスが原因となります。

安静にして気持ちを落ち着かせることで15分以内に症状が改善します。



(2)安静狭心症。これは、運動やストレスとは関係なく起こります。


(3)異型狭心症。これは、冠動脈がけいれんすることによって起こります。
夜間や明け方に発作が多いのが特徴です。



(4)安定(型)狭心症。これは、発作の起こり方が一定している狭心症です。



(5)不安定(型)狭心症。これは、発作が安静時に、毎日、または1日何度も繰り返すもので、より重篤な心疾患である、心筋梗塞を引き起こす可能性が高まっている状態です。

これら狭心症の治療には、薬物療法やカテーテルを用いて冠動脈を広げる治療のほか、冠動脈バイパス手術があり、患者さんの年齢や合併症の有無などで選択肢が変わります。



●狭心症とはどんな病気か

狭心症は発作的に、胸の痛みや圧迫感などの症状を起こす病気です。

発作の起こり方、原因などにより分類されます。

一般的には、「労作(性)狭心症」か「安静狭心症」、「器質型(血管の強い狭窄によって起こる)狭心症」か「異型狭心症」、「安定狭心症」か「不安定狭心症」のように分けられます。



●狭心症の原因は何か

血管内腔が狭くなることにより、心筋に十分な血流・酸素が送り込めない時に胸の痛みが起こります。

血管狭窄の原因の大多数は、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、高血圧などに引き続いて起こる動脈硬化です。

そのほか、血管けいれんも血管狭窄の原因となります。




●狭心症 症状の現れ方

代表的な発作の症状としては、胸の奥が痛い、胸がしめつけられる・押さえつけられる、胸が焼けつくような感じ、などがあります。

大多数は胸部の症状として現れますが、上腹部(胃のあたり)や背中の痛み、のどの痛み、歯が浮くような感じ、左肩から腕にかけてのしびれ・痛みとして感じることもあります。

 
また、痛みの程度は、冷汗を伴う強いものから、違和感程度の軽いものまであります。

とくに糖尿病の患者さんは、病変の重症度に比べて、症状を軽く感じることが多く、注意が必要です。



@労作(性)狭心症

歩行、階段昇降などの身体的な労作、精神的な興奮・ストレスが誘因となります。

安静にしたりストレスがなくなると、多くは数分で、長くとも15分以内で症状が改善します。

通常、心筋は運動などにより動きが盛んになると、正常なはたらきを保つための十分な酸素・栄養を必要とし、冠動脈の末梢が広がることによって血流が増します。

しかし、動脈硬化により冠動脈に狭窄があると、心筋に十分な血流を送り出すことができなくなります。

狭窄の程度が強いと少し動いただけで、また狭窄の程度が軽いと激しい運動をした時に、心筋への酸素の供給が足りなくなります。

つまり、心筋の仕事量に見合っただけの酸素供給が足りなくなった時に症状が現れます。




A安静狭心症

労作・ストレスに関係なく起こる狭心症です。

後述の異型狭心症、不安定狭心症がこれに属します。





B異型狭心症

冠動脈のけいれんによって起こる狭心症です。

労作とは関係なく、夜間、明け方に発作が多いことが特徴です。




C安定(型)狭心症

発作の起こり方が一定している狭心症で、労作性狭心症の大部分がこれに属します。




D不安定(型)狭心症

狭心症の症状が、軽労作または安静時に起こった場合、最近1カ月の間に症状が新しく始まるか起こりやすくなり、毎日のようにまたは1日何回も発作を繰り返す場合、また、ニトログリセリンが効きにくくなった場合の狭心症です。

安定(型)狭心症と比べ、冠動脈に高度な狭窄病変を認めることが多く、心筋梗塞へと進展する可能性の高い状態です。



●狭心症の治療法

検査と診断

@検査

a.心電図

 発作時に異常を認めることができますが、安静時では正常なことも多くあります。



b.運動負荷心電図

 冠動脈に狭窄があり、運動時、心筋に十分な酸素が供給できないと典型的な心電図変化を示します。

階段昇降(マスター法)、ランニングマシン(トレッドミル法)、自転車こぎ(エルゴメーター法)などの負荷方法があります。



c.ホルター心電図

 小型の機械で日常生活における心電図を24時間記録します。とくに異型狭心症の診断に有効です。



d.運動負荷心筋シンチグラム

 放射性同位元素を用いて、運動負荷前後で心筋内に十分血流が足りているかどうかを調べる検査です。詳細は心筋梗塞の項を参照してください。



e.心臓カテーテル検査(冠動脈造影)

 以上の検査で異常が疑われた時に行う検査で、後述の経皮的冠動脈形成術、冠動脈バイパス手術などを行う際には必須の検査です(図8)。詳細は心筋梗塞の項を参照してください。




A症状が似ている病気(鑑別診断)

 急性心筋梗塞、心膜炎、不整脈(発作性心房細動など)、大動脈解離、肺梗塞などの心・血管系の病気以外にも、胸膜炎、自然気胸、肋骨骨折、肋間神経痛などがあります。

また、逆流性食道炎、胃潰瘍、急性胆嚢炎・膵炎などの消化器系の病気と区別することが困難な場合もあります。


posted by ホーライ at 23:14| 心臓と血管の病気 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月19日

低血圧症とは?

●低血圧症とは?

低血圧症とは、一般に収縮期血圧が100mmHg未満をいうことが多く、まったく症状がない人から、立ちくらみ、めまい、失神(一時的な意識消失発作)、全身倦怠感などの症状を伴う例までさまざまです。

このような症状が認められる場合には、低血圧症として治療や管理の対象になることがあります。

低血圧症では、安静時にすでに血圧が低い場合や、立位を維持している時や体位変換時、とくに臥位(寝た状態)や座位から立ち上がった時に血圧が下がる場合があり、原因疾患と体位との関係は非常に重要です。



●低血圧症の原因は何か

低血圧を起こす原因として、全身に循環している血液量(循環血液量)の減少や心臓から送り出す血液量(心拍出量)の低下、末梢血管(細かい血管)の抵抗や血液の粘稠度(粘りけ)が減少することが考えられています。

 一般に低血圧症では、原因となる病気は必ずしも認められず、原因疾患が明らかでない場合は、本態性低血圧症と呼ばれています。

 一方、原因となる病気が認められる場合は症候性(二次性)低血圧症といわれ、起立に伴って認められる場合は起立性低血圧として分類されています。

@原因疾患の有無からみた低血圧症の分類

a.本態性低血圧症

b.症候性(二次性)低血圧症

c.起立性低血圧症

 このように原因疾患の有無からみた分類と異なり、症状の出現の早さからみた分類があります。

A症状の経過からみた低血圧症の分類

a.急性低血圧症

b.慢性低血圧症

 急性低血圧症が、ショックや急性の循環不全を示すような急激な症状が出現する場合であるのに対し、慢性低血圧症は急性低血圧症のように激しい症状を示すことなく、症状がゆっくりと出現し、持続します。

 急性低血圧症は慢性低血圧症に比べると重症であることが多く、ほとんどの患者さんでは救急処置が必要となります。

 急性低血圧を示す原因として、

@出血・脱水などの循環血液量の減少や重症感染症に伴う敗血症ショック

A心不全などの心機能低下(心臓のポンプ作用の低下)や重症不整脈

B過剰な降圧薬の投与や睡眠薬・麻酔薬などの投与による薬物中毒

などがあげられます。




●低血圧症 症状の現れ方

本態性低血圧症、症候性低血圧症、起立性低血圧症などそれぞれ異なった症状の現れ方を示します。

本態性低血圧症は慢性低血圧症を示すため、症状は持続的であるの対し、症候性低血圧症は原因疾患の違いにより、急性または慢性の症状発現を示します。

一方、起立性低血圧症では体位の変換に伴い急性に症状が出現します。



●低血圧症の検査と診断

全身の倦怠感、めまい、立ちくらみなどの症状を認め、常に血圧が低い状態を示し、明らかな原因疾患を認めない場合は、本態性低血圧症と診断されます。

一方、症状の出現様式と関係なく、原因疾患が明らかな場合は症候性(二次性)低血圧症と診断されます。

さらに、起立時のみ血圧低下を示し症状が出現する場合は起立性低血圧症と診断されますが、起立性低血圧症は、本態性低血圧症または症候性低血圧症に併発することもしばしばあります。



●低血圧症の治療の方法

まず、症候性低血圧症の有無の鑑別が重要です。原因疾患が認められる症候性低血圧症の場合は、原因疾患の治療が優先されます。

一方、原因疾患が認められない本態性低血圧症の場合は、愁訴に対して食事療法、運動療法、生活リズムの調整などの生活指導を行い、それでも効果が認められない時は薬物療法を試みます。



●低血圧症に気づいたらどうする

日常生活に影響を及ぼす症状が認められ、血圧測定が自宅で可能な場合は、低血圧の有無を調べるのが重要です。

低血圧症が疑われた場合は、低血圧症の病気分類により生活指導および治療法が異なるので、診断および原因疾患の精査のため専門医(内科)に受診することが大切です。



以上

posted by ホーライ at 09:50| 低血圧 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月16日

再生不良性貧血とは?

●再生不良性貧血とは?

再生不良性貧血は、血液を作っている骨髄のはたらきが低下することによって血液中の白血球、赤血球、血小板のすべてが減少してしまう病気です。

この3系統の血球のどれもが減少している状態を汎血球減少症といいます。

幹細胞自体の減少と幹細胞がうまく働けなくなることの2つの原因があります。

大量の放射線や特殊な化学物質を浴びることで、幹細胞自体が減ってしまうこともあります。

感染症の症状(発熱、のどの痛みなど)、血小板減少による出血傾向(皮下の点状出血斑、鼻出血、歯肉出血など)、赤血球減少による貧血症状が起こります。

軽症では、治療はほとんど必要ありません。

しかし、軽度から中等症、重症へと移行することもあるので、経過観察が必要になります。

中等症から重症の場合は、放っておけば死の危険性もあります。

この場合の治療としては、免疫抑制療法や骨髄移植が選択されます。



●再生不良性貧血とは?

どんな病気か

血液を産生している骨髄のはたらきが低下することによって起こります。

すべての血球の元になる幹細胞がはたらかなくなるので、前述の汎血球減少症を起こします。


●再生不良性貧血の原因は何か

大きく分けて2つの場合が考えられます。

ひとつは幹細胞自体が減少する場合、もうひとつは骨髄に幹細胞がうまくはたらけなくなるような(免疫的な)ブレーキがかかってしまう場合です。

幹細胞自体を減らすものとして、特殊な化学物質や大量の放射線が知られています。


●再生不良性貧血の治療法

検査と診断

骨髄穿刺(針を刺して採取する)によって血球の低形成が確かめられ、末梢血検査で汎血球減少があれば診断がつきます。




●再生不良性貧血の治療の方法

軽症では治療を必要としないことがほとんどです。

しかし、診断時には軽症でも数年間に中等症、重症に悪化することもあるので、経過の観察は必須です。

中等症から重症の場合は、治療を行わなければ致死的な経過をとります。

骨髄移植とは、患児の骨髄をいったん破壊し、そこに健常なドナーの骨髄幹細胞を移植し育ってもらおうというもので、免疫抑制療法というのは幹細胞をはたらけない状態にしているブレーキを免疫抑制薬を使ってはずそうというものです。




●再生不良性貧血で処方されるお薬

シクロスポリンカプセル10mg「トーワ」[移植用][東和薬品株式会社] ※ジェネリック医薬品です。

お薬の形状(淡黄白色のカプセル剤、長径約8mm、短径約5mm)。リンパ球に特異的・可逆的な免疫抑制作用を示し、主にヘルパーT細胞の活性化を抑え、異常な免疫反応を抑えます。 通常、臓器移植(腎臓、...


プレロン錠1mg[大洋薬品工業株式会社]

お薬の形状(白色の片面1/2割線入り錠剤 直径6.5mm 厚さ2.7mm)。合成された副腎皮質ホルモン製剤です。副腎皮質ホルモンはもともと体内にあるホルモンの一種であり、抗炎症作用、抗アレルギー...


アマドラカプセル25mg[移植用][沢井製薬株式会社] ※ジェネリック医薬品です。

お薬の形状(白色〜淡黄白色のカプセル剤、長径10mm、短径6.8mm)。T細胞の受容たん白と結合することにより、ヘルパーT細胞の活性化を抑制し免疫抑制作用を示します。 通常、臓器移植(腎臓、肝臓...



プリモボラン錠5mg[バイエル薬品株式会社]

お薬の形状(白色の錠剤(直径7.0mm 厚さ2.7mm))。蛋白同化作用により、カルシウム、リン、窒素を貯留することにより、骨を丈夫にし、体力の著しい消耗状態を改善します。またヘモグロビン量、赤...


リカバリンカプセル250mg[旭化成ファーマ株式会社] ※ジェネリック医薬品です。

お薬の形状(橙色と淡黄色のカプセル剤、全長17.6mm)。種々の出血症状やアレルギーなどに関与するプラスミンの働きをおさえて、抗出血・抗アレルギー・抗炎症作用を示します。 通常、全身性の線溶亢進...



以上

posted by ホーライ at 03:26| 血液の疾患 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月13日

鉄欠乏性貧血とはどんな病気か

●鉄欠乏性貧血とはどんな病気か

血液のなかにはさまざまな成分が含まれています。

そのひとつに赤血球(せっけっきゅう)があり、そのなかに含まれるヘモグロビンは、体中に酸素を運ぶ重要なはたらきをしています。
 
ヘモグロビンは、酸素と結合するヘムという物質と、グロビンという蛋白質が結合してできていますが、ヘムの合成には鉄が必要です。



鉄は胃酸により吸収されやすい形に変わり、十二指腸や小腸から吸収されます。

人の体のなかに約4g含まれており、約3分の2がヘモグロビン鉄で、残りは主に貯蔵鉄と、その他、血清、筋肉、酵素にも含まれています。
 

普通は、体内の鉄の出入りはごくわずかでバランスは保たれていますが、何らかの原因でこのバランスが崩れることによって鉄欠乏症が起きます。

鉄が不足するとヘモグロビンの産生がうまくいかなくなるために赤血球1個あたりのヘモグロビンが減り、赤血球の大きさが小さくなって、小球性低色素性(しょうきゅうせいていしきそせい)の鉄欠乏性貧血になります。

貧血の90%以上がこの鉄欠乏性貧血です。


●鉄欠乏性貧血の原因は何か
 
鉄の欠乏は、供給量と需要量または喪失量とのバランスが負に傾くことによって生じます。

(1)食事性の鉄の摂取不足や消化管からの鉄吸収障害で供給量が不足した場合、(2)成長期や妊娠に伴って鉄の需要量が増えた場合、(3)慢性出血性疾患や月経過多により鉄の喪失量が増えた場合に、生体内の鉄バランスが負に傾き、まず肝臓、脾臓(ひぞう)、骨髄などの組織の貯蔵鉄が動員されて潜在的な鉄欠乏状態になります。
 
貯蔵鉄が枯渇してくると血清鉄が次第に低下し、この状態が数カ月続くと小球性低色素性貧血(いわゆる「血が薄い」)となります。

さらに進行して組織鉄が減少すると、貧血以外のさまざまな臨床症状が現れてきます。

日本赤十字社の調査では、男性の0・5%、女性の12・7%が鉄欠乏性貧血であるといわれています。



●鉄欠乏性貧血の症状の現れ方
 
貧血による組織への酸素供給量の低下を補うために、心拍数の増加による動悸や息切れ、易(い)疲労感(疲れやすい)、全身の倦怠感(けんたいかん)、頭重感、顔面蒼白、狭心症様症状(胸の痛み)などの一般的な貧血症状が現れます。

くわえて、組織鉄の欠乏が進むと爪がスプーン状になったり、口角炎、舌炎、嚥下(えんげ)障害(プラマービンソン症候群)などがみられることもあります。
 

なお、立ちくらみ(いわゆる脳貧血(のうひんけつ))はひどい貧血の場合にも起こりますが、多くは自律神経機能の低下により下半身の血管が縮まらず、その結果、上半身が血液不足になって起こります。


小児の鉄欠乏性貧血のなかには、泥、ちり、釘(くぎ)、チョークなどを食べる異嗜症(いししょう)を示す症例もあります。
 
貧血は徐々に進むことが多いため、ヘモグロビンが6〜7gdlくらいまでに減少していても、体が順応して明らかな貧血症状がみられないこともあります。



●鉄欠乏性貧血の検査と診断
 
血液検査で、小球性低色素性貧血(MCV・MCHの低下)、血清鉄低値、総鉄結合能高値、貯蔵鉄を反映する血清フェリチン低値が認められた場合に鉄欠乏性貧血と診断されますが、原因がはっきりわからない時はさらに検査が必要です。

60歳以上の高齢者では、鉄欠乏性貧血の約60%が消化管のがんなどの悪性疾患によると報告されているので、便潜血(べんせんけつ)や内視鏡などの検査も必要です。



●鉄欠乏性貧血の治療の方法
 
鉄欠乏の原因に対する治療と鉄の補給を行います。

偏食などの鉄の摂取不足、成長期や妊娠による鉄の需要の増大、生理や過激な運動による鉄の損失などの場合は、普段から鉄分を多量に含む食品の摂取が大切です。

動物性食品中には吸収されやすいヘム鉄が、植物性食品には吸収されにくい非ヘム鉄が多く含まれています。

また、ビタミンCは非ヘム鉄の吸収を促進します。
 


貧血がひどい場合や食事療法で改善が難しい場合は、経口鉄剤(硫酸第一鉄やさまざまな有機鉄)が1日100〜200mg前後で投与されます。

鉄剤を服用すると便の色が黒くなりますが、心配はいりません。


副作用として吐き気などの胃腸障害が時にみられますが、徐放性製剤(徐々に吸収されるように工夫されたもの)により軽減されます。

なお、お茶に含まれているタンニンは鉄と結合して鉄の吸収を妨げますが、日常生活のなかで普通に飲んでいる程度ではさしつかえありません。
 

鉄の補給は経口が原則ですが、吐き気などが強くて経口投与が不可能な場合や鉄剤の吸収障害がある場合、急速に鉄欠乏状態の改善を必要とする場合には、鉄剤の静脈注射による治療法が用いられます。

しかし、この場合は鉄剤の過剰投与による障害(ヘモクロマトーシスなど)を避けるため、必要以上に投与期間が長くならないように注意が必要です。
 
経口投与した場合の治療効果は、まず血清鉄が上昇し、網赤血球(もうせっけっきゅう)が7〜10日後に増え、次いでヘモグロビンが上昇してきます。

しかし、貯蔵鉄が完全に正常になるまでには3〜4カ月程度かかるので、血清フェリチン値が十分に上昇するまで治療を継続します。



●鉄欠乏性貧血に気づいたらどうする
 
内科を受診して血液検査をしてもらいます。

鉄欠乏性貧血と診断された時は、鉄欠乏の原因を調べることが大切です。

痔や子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)など良性の疾患による鉄欠乏性貧血は、適切な鉄剤の投与によって治ります。

しかし、成人の場合は消化器のがんが原因疾患であることがあるので注意が必要です。
 
なお、出血などの明らかな原因がなく、2週間以上鉄剤を服用しても反応がない場合は、血液疾患の可能性もあるため、血液内科への受診が必要です。


以上

posted by ホーライ at 02:27| 血液の疾患 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月11日

巨赤芽球性貧血とはどんな病気か?

●巨赤芽球性貧血とはどんな病気か?


細胞が増えるためにはDNAの合成が必要で、その際、ビタミンB12と葉酸(ようさん)が関係しています。

ビタミンB12は胃の壁細胞から分泌される内因子と結合し、回腸(小腸)の末端部で吸収され、肝臓に貯蔵されます。

葉酸は十二指腸と空腸(小腸)の上部で吸収されます。
 
ビタミンB12あるいは葉酸が欠乏すると細胞分裂がうまくいかないため、骨髄(こつずい)中の赤芽球(せきがきゅう)(赤血球になる前の未熟な細胞)が大きくなり(巨赤芽球(きょせきがきゅう))、血液中に出てくる赤血球も大きくなります。


骨髄での造血能(血を造る能力)は上がりますが、赤血球になる前に壊れてしまい(無効造血)、大球性高色素性(だいきゅうせいこうしきそせい)貧血が起こります。

同じような変化は、白血球や血小板にも現れるため、すべての血球が少なくなります(汎血球減少症(はんけっきゅうげんしょうしょう))。
 
このほか、ビタミンB12の欠乏では神経系の異常が現れる場合もあります。



●巨赤芽球性貧血の原因は何か

巨赤芽球性貧血の原因は、ビタミンB12の摂取不良・吸収障害および葉酸の摂取不足・吸収障害・需要増大など多岐にわたります。

このうち、自己免疫によって胃粘膜の萎縮(いしゅく)が生じ(胃壁細胞抗体)、内因子の分泌が低下し(内因子抗体)、ビタミンB12の吸収障害が起こったものを悪性貧血といいます。
 

ビタミンB12の吸収部位である回腸(小腸)を切除した場合だけでなく、胃を全摘出したあともビタミンB12の吸収に必要な内因子が不足し、ビタミンB12の吸収が阻害されます。

また、消化管の手術後に小腸の盲管部で異常増殖した腸内細菌によってビタミンB12が消費され(盲管係蹄(もうかんけいてい)症候群)、巨赤芽球性貧血が起こる場合があります。

なお、ビタミンB12は肝臓で大量に貯蔵されているため、術後5〜7年を経過してはじめて症状が現れます。
 
一方、葉酸は体内貯蔵量が少ないので、妊娠、造血機能の亢進(溶血性(ようけつせい)貧血など)、炎症、白血病(はっけつびょう)、悪性腫瘍に伴ってしばしば欠乏します。

また、葉酸は熱に弱く、アルコールの多飲により小腸での吸収が障害されます。

そのほか、葉酸拮抗薬などの薬剤も巨赤芽球性貧血の原因になります。




●巨赤芽球性貧血の症状の現れ方

貧血は徐々に進むことが多いため、体が順応して初期には明らかな貧血症状がみられないこともあります。

一般的な貧血症状(動悸(どうき)、息切れ、易(い)疲労感、全身の倦怠感(けんたいかん)、頭重感、顔面蒼白など)に加えて、消化器症状として舌の表面がツルツルになり(舌乳頭萎縮(ぜつにゅうとういしゅく))、痛みを伴うハンター舌炎や、味覚低下、食欲不振、悪心などのほかに若年者での白髪もみられます。
 
さらに、ビタミンB12の欠乏では、四肢のしびれなどの知覚障害と歩行障害などの運動失調(亜急性連合脊髄変性症(あきゅうせいれんごうせきずいへんせいしょう))や興奮、軽い意識混濁などの精神障害を来すこともあります。



●巨赤芽球性貧血の検査と診断
 
血液検査で、大球性高色素性(だいきゅうせいこうしきそせい)貧血(MCV・MCHの高値、MCHCは正常)、白血球減少および血小板減少(汎血球減少)を示すことが多く、白血球分類で過分葉好中球(かぶんようこうちゅうきゅう)がみられます。

生化学検査では、間接ビリルビンおよびLDHが高値、ハプトグロビンが低値を示します。

骨髄検査では、赤芽球系細胞が過形成を示し、巨赤芽球が高率に認められます。
 
特殊な検査としては、ビタミンB12吸収試験(シリング試験)の異常、血清ビタミンB12の低値または血清葉酸の低値が原因に応じて認められます。



●巨赤芽球性貧血の治療の方法
 
ビタミンB12は食事から容易にとることができるため、特殊な食事をしていないかぎり原因の大部分は吸収の問題です。通

常は、ビタミンB12を注射か点滴で、最初の2週間は連日(または週2〜3回)投与し、そののち維持療法として2〜3カ月に1回投与しますが、最近では経口投与の有効性も報告されています。

根本的に治すことができないため、終生にわたって定期的な補充が必要ですが、補充することにより症状の改善は可能で、予後は良好です。
 

葉酸欠乏の場合は、原因に対する治療(禁酒など)と葉酸の経口投与による補充療法を数週間続ければ改善しますが、摂取不足や妊娠による需要の増大による欠乏の場合は、平素から葉酸を多量に含む食品(ホウレンソウなどの葉物の野菜や果物、豆類、レバー)をとることが大切です。

また、葉酸は熱に弱いため、調理法にも気をつける必要があります。



●巨赤芽球性貧血に気づいたらどうする
 
症状に気づいた時は、内科を受診して血液検査をしてもらいます。

巨赤芽球性貧血は補充療法など適切な治療を行えば予後は良好です。

しかし、同じような検査値の異常を示す疾患に、骨髄異形成(こつずいいけいせい)症候群や赤白血病(せきはっけつびょう)などの造血器悪性疾患(ぞうけつきあくせいしっかん)もあるので、大球性貧血と診断された時は血液内科を受診したほうがよいでしょう。

また、悪性貧血の場合は胃がんを合併することがあるので注意が必要です。



以上


posted by ホーライ at 05:20| 血液の疾患 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月02日

全身性エリテマトーデスの症状の現れ方検査と診断

●全身性エリテマトーデスの症状の現れ方検査と診断
 

一般的な検査としては、血沈(けっちん)(赤血球沈降速度)、尿、末梢血血液検査、胸部X線、心電図などが必要です。

免疫血清検査では、免疫グロブリン、補体などの測定に加えて、抗核抗体・抗DNA抗体・抗Sm抗体・抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループス抗凝血素、梅毒血清反応生物学的擬陽性)といった自己抗体の検査が重要です。
 
SLEそのものの診断は、1982年のアメリカリウマチ協会の「改訂基準」(1997年に改変)に照らして行われます。
 

SLEの活動性の指標としては、抗DNA抗体と補体が最も鋭敏で、活動性が高いと抗DNA抗体は上昇し、補体は低下します。

一般的な炎症のマーカーである血清のC反応性蛋白は、SLEではあまり上昇しません。


●治療の方法
 
治療の中心は、免疫のはたらきを抑えることと、炎症を止めることで、そのための第一選択薬は副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)です。

効果不十分の場合は、ステロイドのパルス療法や免疫抑制薬の併用が行われます。
 
こうした治療により、現在SLE全体としての5年生存率は90%を超えています。死因で多いのは、中枢神経障害、腎不全、感染症です。
 


治療に際しては、一人ひとりの重症度、疾患活動性を十分に吟味したうえで、薬の種類や量を決定します。

一般的にステロイドは、重症の場合はプレドニゾロンを1日60mg、中等症〜軽症の場合は1日20〜40mgから開始します。
 

ステロイドによって症状が軽快し、検査データも改善したら減量を開始しますが、急激な減量は再燃を招く危険があるため、慎重にゆっくりと行います。

目安としては、2〜4週間ごとに投与量の10%を超えない範囲で減量します。

最終的には、プレドニゾロン1日5〜10mgを長期間にわたって使用し続ける必要があります。
 
初回投与量で効果不十分の場合、または減量中に再燃した場合はステロイドを増量します。

これでも不十分な場合は、ステロイドのパルス療法や免疫抑制薬(シクロホスファミド1日50〜100mg、アザチオプリン1日50〜100mg)を併用します。

とくに、WHO分類のIV型のループス腎炎に対しては、シクロホスファミドの点滴静注(シクロホスファミドパルス療法)が長期予後の面からも有用性が高いことが証明されていますが、副作用として無月経(生殖器障害)があるので、慎重に適応を考える必要があります。
 
ステロイドの副作用には、満月様顔貌(がんぼう)、消化性潰瘍、糖尿病、感染症、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などがあります。

とくに、ステロイドの内服量が多い間は、ニューモシスチス肺炎などの日和見(ひよりみ)感染に気をつける必要があり、ST合剤の内服やペンタミジンの吸入で予防します。

骨粗鬆症はほぼ必発で、プレドニゾロン1日5mgであっても進行するため、活性型ビタミンD製剤やビスフォスホネート製剤などの予防内服が必要です。



●生活指導
 
日光暴露(ばくろ)、感染症、妊娠、外傷、手術、薬剤アレルギーなどのSLEの増悪(ぞうあく)因子を極力避けるようにすることが大切です。

SLEでは薬剤アレルギーを有することが多いので、原則として主治医以外からの投薬は受けないようにしてください。
 
また、感染症を起こした場合でも、決してステロイドを中止してはいけません。

これは、長期間にわたるステロイドの内服のために副腎皮質のストレス反応が十分に起きにくくなっているため、中止すると副腎不全を起こしてショック状態になる危険があるからです。
 
プレドニゾロンを1日20mg以下でSLEの疾患活動性がコントロールされていれば、妊娠・出産が可能です。

しかし、分娩後に増悪することが多いので、分娩時よりステロイドを一時的に増量します。

手術が必要な場合も、分娩と同様にステロイドを一時的に増量します。
 
病気の悪化を招いたり、ショックになることがあるので、ステロイドは決して勝手に減らしたりやめたりしてはいけません。
 
緊急の災害時にはステロイドを一緒にもって避難できるように、普段から少し余分に持っておいたほうがいいでしょう。


以上

posted by ホーライ at 05:00| 自己免疫疾患 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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